=============================================================================== [北海道] H30.2.28 ・゚・*:.。..。.:*・゜゚・*:.。..。.:*・゚* Andante **・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。 Vol.104 〜北海道の自殺対策について〜 Hokkaido 発行:北海道地域自殺対策推進センター Government (北海道立精神保健福祉センター内) =============================================================================== ******************************************************************************** ※『Andante:アンダンテ』とは 「ゆっくりと歩くくらいの速さで」という意味の音楽用語です。ゆっくりと自分にとって 適度なスピードで歩いているとき、私達の視野はいつもよりぐっと広がり、忙しく過ごす 中では見過ごしがちなものに気が付くことがあります。北海道地域自殺対策推進センター では、皆さんと共に歩いていけるような「Andante」を配信していきたいと考えています 。 -------------------------------------------------------------------------------- − 目 次 − 【1】 北海道における自殺の現状 ◇ 平成30年1月末の自殺者数(暫定値)[警察庁発表] ◇ 平成28年中における自殺未遂歴の有無別自殺者数[厚生労働省] 【2】 自殺について知ろう ◇ 社会学から見た若年自殺の背景(『若年者の自殺対策のあり方に関する報告書』より ) 【3】 お知らせ ◇ こころの電話相談 ◇ HP及び携帯HPをご覧ください 【4】 編集後記 -------------------------------------------------------------------------------- ******************************************************************************** 【1】北海道における自殺の現状 ◇平成30年1月末の自殺者数(暫定値)[警察庁発表]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 警察庁より平成30年1月末の月別自殺者数の暫定値が発表されました。 平成30年1月の北海道の自殺者数は68人でした。また、全国の自殺者数は1,589人、そのう ち男性は1,098人、女性は491人でした。 以下に、北海道および全国の前月比と前年同月比の自殺者数を示します。 1.平成30年1月末と平成29年12月末の月別自殺者数の比較 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H30年 1月<北海道 68人、全国 1,589人、全国(男性) 1,098人、全国(女性) 491人> H29年12月<北海道 56人、全国 1,388人、全国(男性) 989人、全国(女性) 399人> 前 月 比 <北海道 +12人、全国 +201人、全国(男性) +109人、全国(女性) +92人> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 平成30年1月の自殺者数は、前月比では北海道・全国・全国男性・全国女性において増加 でした。都道府県別では、自殺者数が増加したのは33、減少したのは12、変化なしは2で した。 2. 平成30年1月末と平成29年1月末の月別自殺者数の比較 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H30年1月 <北海道 68人、全国 1,589人、全国(男性) 1,098人、全国(女性) 491人> H29年1月 <北海道 85人、全国 1,815人、全国(男性) 1,299人、全国(女性) 516人> 前 年 比 <北海道 -17人、全国 -226人、全国(男性) -201人、全国(女性) -25人> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 前年同月比では、北海道・全国・全国男性・全国女性において減少でした。また、都道府 県別でみると、自殺者数が増加したのは11、減少したのは34、増減なしは2でした。 ◇平成28年中における自殺未遂歴の有無別自殺者数[厚生労働省]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 総数 男性 女性 全国自殺者総数 <21,897人(-11.3%)、15,121人( -10.7%)、6,776人(-12.9%)> 道内自殺者総数 < 1,004人( -8.0%)、 714人( -14.5%)、 290人( -4.2%)> 道内自殺未遂歴あり< 195人( -5.1%)、 107人( -6.4%)、 88人( -4.3%)> 道内自殺未遂歴なし< 614人(-12.0%)、 457人(-25.1%)、 157人( -5.2%)> 不詳 <195人( -5.9%)、 150人(-11.7%)、 45人( -2.7%)> −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ※()内は前年比 平成28年北海道における男女別、自殺未遂歴の有無別の自殺者数をみると、総数において は自殺未遂歴ありが195人、自殺未遂歴なしが614人と約3倍の差となっています。男性に おいては、自殺未遂歴ありが107人、自殺未遂歴なしが457人と約4倍の差、女性において は、自殺未遂歴ありが88人、自殺未遂歴なしが157人と約2倍の差となっています。 前年比をみると、総数・男性・女性の全てにおいて、自殺未遂歴あり・なし・不詳に関わ らず減少しています。特に、総数における自殺未遂歴なしの減少が大きくなっています。 男女別では、男性の自殺未遂歴なしの減少が大きく、女性は自殺未遂歴あり・なしの減少 に大きな差は見られませんでした。 自殺未遂歴なしに対してありの割合が少なくなっていますが、自殺未遂歴ありというのは 再企図を防止できていれば自殺を防ぐことの出来た数字でもあります。『自殺を予防する 世界の優先課題』(2014)には、自殺に関する個人の危険因子について、過去の自殺企 図を「いままでのところ、将来の自殺の危険の最大の指標は、過去における1回以上の自 殺企図である。自殺企図の1年後でさえ、自殺の危険と他の原因による早期死亡の危険は 高いままである。」と記載されています。自殺未遂者のその後のフォローや見守りは難し い問題ではありますが、再企図を防止する施策が求められます。 参考文献 厚生労働省、「地域における自殺の基礎資料」 世界保健機関、訳 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 自殺 予防総合対策センター、2014、『自殺を予防する 世界の優先課題』 ******************************************************************************** 【2】自殺について知ろう ◇社会学から見た若年自殺の背景(『若年者の自殺対策のあり方に関する報告書』より) 警察庁自殺統計によると、全国における年間自殺者数は、平成10年に3万人を超え、以来1 2年間連続で高止まりの状態が続いていました。しかし、平成22年からは徐々に減少を続 け、平成29年(警察庁自殺統計暫定値)には21,302人となりました。一方で、若年層(30 歳未満)の自殺者数は平成21年4,000人から平成28年2,736人の31.7%減少に留まっていま す。年齢層全体、30代、50~60代と比べると減少が小さくなっています。自殺死亡率の年 次推移を見ても、横ばい、または微減となっています。また、厚生労働省人口動態統計に よると、15歳〜39歳までの死因順位第一位が自殺となっています。 今回は、『若年者の自殺対策のあり方に関する報告書』(2015)の中から浅野智彦氏の「 社会学から見た若年自殺の背景」を一部抜粋し、若年者の自殺についてあらためて考えて みたいと思います。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 自殺と幸福 −若年自殺が悪化した時期に若者全体の幸福度・生活満足度は上昇している。内面を視野 に入れる必要がある。− 1990年代後半以降、フリーターやニート等の社会的問題に代表されるように、若者の雇用 環境の劣化には著しいものがある。ところがこの間、若者の幸福感や生活満足度は上昇し 続けているのである。内閣府の国民意識に関する世論調査によれば20代の生活満足度はか つてないほどの高さを示しており、またNHK放送文化研究所の中学生・高校生の生活と意 識調査によれば、2002年から2012年にかけて「とても幸福だ」と感じる中高生が顕著に増 加している。また自殺念慮についても、NHK文化研究所の中高生調査によれば、低下して いる様子がうかがわれる。この謎については様々な解釈が試みられているが、いくつかの データから推測されるのは、身近な人間関係の良好さが彼らの幸福の重要な源泉になって いるということだ。 通常、自殺と幸福とはちょうど対極的な位置にあると考えられている(例えば、白石賢・ 白石小百合の幸福研究では、幸福度は主観的な評定において自殺(鬱状態)と対極にある ものと位置づけられている)。その観点からすれば、幸福度が上がっているのに自殺が増 えるのは不思議だということになりそうだ(幸福のパラドクスに加えて、自殺のパラドク ス)もしかすると幸福と自殺とは単純な対立関係にはないのかもしれない。実際、岡檀は 自殺希少地域の幸福度がその他の地域に比べて高くないことを明らかにしている。希少地 域で最も多い回答は中程度の幸福なのだという。また、黒川・大竹の研究によれば幸福度 と満足度とは異なった条件によって上下し、世代効果・時代効果・年齢効果の組み合わせ によって多様なパタンを示すのだという。これらは若年層の自殺と幸福との関係を考える 上でも示唆を与える知見である。いずれにせよ、若年自殺を考える際に、自殺と幸福とい う対極的な現象の双方を視野に収めておく必要がある。 世代論的な要因に着目する研究 −世代論的な要因に着目すると、1930年代生まれの自殺死亡率の高さには世代特有の価値 意識が関与しているが、現在の若者の自殺に世代要因を想定することは難しい。また、現 在の子どもの貧困は、将来的に自殺促進要因になる危険性がある。− 戦後、若年層の自殺が深刻な悪化を見せた第一のピークについて(現在は第三のピーク) 高原は、「彼ら1930年代生まれの人々は、その成長の過程で勤勉さと忍耐をよしとする価 値観を身につけてきた。そのことが、彼らに弱音を吐くことを躊躇させ、社会生活におけ る葛藤や挫折に対する柔軟な対応を難しくしている。そのような心性が彼らの自殺リスク を押し上げてきたのである」と述べている。このリスクは世代的なものであり、1990年代 末以降には高年齢層の自殺数の増大となって現れたとも論じている。 実際、別の研究でもこの世代の価値観が変わりにくいものであったことが確認されている 。すなわち坂口と柴田は、NHK放送文化研究所の「日本人の意識構造」調査のデータを用 いて、この世代の価値観が時代ごとの社会状況や本人たちの加齢による変化を被りにくか ったことを明らかにした。彼らが特に注目したのは、この世代の生活目標が、他の世代と 比べて、「身近な人たちとの和やかな関係」に向かう傾向が低いという点だ。これは、彼 らが弱音を吐けず、したがって、援助希求行動に消極的であることと関連していると推測 される。 また、彼らの分析によれば、1930年代生まれの独特な価値観は、彼らの幼少期の貧しさに よって形成された可能性が高いという。とすると現在、社会的に注目されている「子ども の貧困」も、将来的の自殺リスクに関わる要因であるかも知れない。 社会経済的な要因に着目する研究 −社会経済的な要因として、失業率と経済格差が自殺死亡率を押し上げる度合いが日本で は大きい。積極的労働市場政策は自殺死亡率を押し下げる。また、就活自殺の改善のため にはライフコースモデルの修正が必要である。− 自殺が経済的な状況に左右されるものであることは多くの研究によって明らかにされてき た。中でも日本の自殺は、他のOECD諸国のそれに比較して経済的な要因に左右される度合 いが大きい。とりわけ、失業と経済格差の二つは、自殺死亡率に顕著な影響を与えている 。 失業の効果を明らかにしている研究の一つが森田次朗のものだ。森田は日本版GSS(JGSS )のデータを用いて、自殺念慮を規定する要因を検討した。その結果、20歳から59歳の男 性の自殺念慮は、労働条件ではなく、失業の可能性を予見しているかどうかによって左右 されることが確認された。 他方、公共政策と社会関係資本とのいずれかが自殺抑止に効果的であるということも確認 されている。例えば、松林と上田は各都道府県の公的支出と自殺死亡率との関係を検討し 、行政投資額・失業対策費が自殺死亡率と負の関係にあること(ただし後者は男性につい てのみ)を示した。 若年層については「就活自殺」と呼ばれるものが目立つようになってきている。ライフリ ンクの調査によれば、「本気で死にたい」「消えたい」と思った学生は21%にのぼる。そ の背景には安定した「正職員」という進路がますます狭い道になりつつあるにもかかわら ずそのような進路への固執が強まっているという事情がある。 これらは、高度成長期に確立したライフコースモデルの失調と、その失調をある程度補い つつ、別のモデルへと誘導する諸政策の問題と考えることができる。積極的労働市場政策 などマクロな政策をもつ自殺抑止効果にこれまで以上に注目すべきであろう。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ※紙面の都合上、一部改変・省略しています。 『若年者の自殺対策のあり方に関する報告書』(2015)の中から浅野智彦氏の「社会学か ら見た若年自殺の背景」を取り上げて、若年者の自殺について社会学的な知見からの考察 をまとめてみました。 自殺と幸福感は一見すると対立的な立ち位置にあるように思われるが、実際には直接的に 対極するものではなく、むしろ自殺希少地域では他の地域と比べて幸福度は高くないとい うお話しがありました。 世代論的な要因では、世代毎による価値観や心性はそのまま年を経ても変化しない場合が あること、特に援助希求行動のとれない価値観や心性は自殺増加を促す要因となっている とのことでした。また、そうした価値観は貧困によっても形成される場合があるため、今 後注意が必要とのことでした。 社会経済的な要因では、失業率・経済格差は自殺と密接に関係しているが、公共政策と社 会関係資本によって抑止できるということ。若年者に関しては「就活自殺」という問題が あり、それは若年者ならでは進路への固執がある、つまり高度経済成長に確立したライフ コースモデルの変化が必要になって来ているというお話しがありました。 今回はこの3点に注目しまとめましたが、本誌の方ではこの他にも「身近な人間関係に着 目する研究」、「自殺についての語り方に着目する研究」についても記載されています。 興味のある方は御一読下さい。 参考文献 科学的根拠に基づく自殺予防総合対策推進コンソーシアム準備会 若年者の自殺対策のあ り方に関するワーキンググループ、2015、『若年者の自殺対策のあり方に関する報告書』 ******************************************************************************** 【3】お知らせ ◇ 精神保健福祉センターでは、こころの電話相談を次の時間帯で行っています。 月曜から金曜日 9:00〜21:00 土曜日曜祝日(12月29日〜1月3日を除く) 10:00〜16:00 Tel:0570-064-556 ※ご相談の電話が集中しますと、つながりづらい状態になりますがご了承ください。 ◇ HP・携帯版HPをご覧ください 北海道地域自殺対策推進センターのHPを開設しています。最新の北海道の状況を掲載して おり、より情報を見やすく、分かりやすくお伝えできるよう心がけています。 パソコンHP URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/jisatutaisaku.htm また、携帯電話で見ることができる携帯版HPも開設しています。警察庁および北海道警察 から公表された統計資料をもとに、北海道における自殺の状況を掲載しています。こちら も併せてご覧ください。 携帯HP URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/i/joukyou.htm ******************************************************************************** 【4】編集後記 まだまだ寒さは厳しく雪解けも遠いですが、少しずつ日が長くなり、春が近づいてきてい るのを感じます。さて、先月から今月にかけて、少し目新しいニュースとして仮想通貨の 乱高下がありました。それに伴い、アメリカのニュースサイトは自殺者増加を懸念し、自 殺防止ホットラインを設置したようです。実際に、韓国では自殺者も出たと報道がありま した。もう騒動は落ち着いてきているとは思いますが、日本においても注意が必要かも知 れません。 3月は、自殺対策強化月間です。各種関係機関で自殺対策に関する講演や催し物が行われ ます。例年通りであれば、平成29年自殺者数の確定値が公表されるのもこのあたりになり ます。新しい情報が入り次第、逐次お伝えしていきたいと思います。 いつもご愛読ありがとうございます。 次号Vol.105は、2018年3月末に配信予定です。 *お問い合わせ先* 北海道立精神保健福祉センター 札幌市白石区本通16丁目北6番34号 Tel 011-864-7121 Fax 011-864-9546 URL http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/ Mail hofuku.seishin1@pref.hokkaido.lg.jp