=============================================================================== [北海道] H30.3.31 ・゚・*:.。..。.:*・゜゚・*:.。..。.:*・゚* Andante **・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。 Vol.105 〜北海道の自殺対策について〜 Hokkaido 発行:北海道地域自殺対策推進センター Government (北海道立精神保健福祉センター内) =============================================================================== ******************************************************************************** ※『Andante:アンダンテ』とは 「ゆっくりと歩くくらいの速さで」という意味の音楽用語です。ゆっくりと自分にとって 適度なスピードで歩いているとき、私達の視野はいつもよりぐっと広がり、忙しく過ごす 中では見過ごしがちなものに気が付くことがあります。北海道地域自殺対策推進センター では、皆さんと共に歩いていけるような「Andante」を配信していきたいと考えています 。 -------------------------------------------------------------------------------- − 目 次 − 【1】 北海道における自殺の現状 ◇ 平成30年2月末の自殺者数(暫定値)[警察庁] ◇ 東日本大震災に関する自殺者数の年次推移[厚生労働省] 【2】 自殺について知ろう ◇ 福祉・経済政策と自殺率 【3】 お知らせ ◇ こころの電話相談 ◇ HP及び携帯HPをご覧ください 【4】 編集後記 -------------------------------------------------------------------------------- ******************************************************************************** 【1】北海道における自殺の現状 ◇平成30年2月末の自殺者数(暫定値)[警察庁]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 警察庁より平成30年2月末の月別自殺者数の暫定値が発表されました。 平成30年2月の北海道の自殺者数は63人でした。また、全国の自殺者数は1,555人、そのう ち男性は1,072人、女性は483人でした。 以下に、北海道および全国の前月比と前年同月比の自殺者数を示します。 1.平成30年2月末と平成30年1月末の月別自殺者数の比較 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 北海道 全国 全国(男性) 全国(女性) H30年2月 63 1,555 1,072 483 H30年1月 69 1,612 1,116 496 前 月 比 -6 -57 -44 -13 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 平成30年2月の自殺者数は、前月比で北海道、全国、全国男性、全国女性のすべてにおい て減少しました。 都道府県別では、自殺者数が増加したのは16、減少したのは29、変化なしは2でした。 2. 平成30年2月末と平成29年2月末の月別自殺者数の比較 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 北海道 全国 全国(男性) 全国(女性) H30年2月 63 1,555 1,072 483 H29年2月 78 1,646 1,143 503 前 年 比 -15 -91 -71 -20 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 前年同月比では、北海道、全国、全国男性、全国女性のすべてにおいて減少しました。 また、都道府県別でみると、自殺者数が増加したのは17、減少したのは27、増減なしは3 でした。 ◇東日本大震災に関する自殺者数の年次推移[厚生労働省/警察庁]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 例年3月は厚生労働省自殺対策推進室が発表している『東日本大震災に関連する自殺者数 』から年次推移をご報告しています。震災から7年が過ぎましたが、残念なことに震災の 影響による自殺はまだ続いているようです。 以下のデータは発見日、発見地ベースの確定値です。また、平成23年のデータは6月から1 2月までのものです。平成30年1月の集計もすでに出ていますが、0なので省略しました。 なお、「東日本大震災に関連する自殺」とは、以下の(1)から(5)のいずれかの要件 に該当する自殺をいうと定義されています。 (1)遺体の発見地が、避難所、仮設住宅又は遺体安置所であるもの。 (2)自殺者が避難所又は仮設住宅に居住していた者であることが遺族等の供述その他に より判明したもの。 (3)自殺者が被災地から避難してきた者であることが遺族等の供述その他により判明し たもの。 (4)自殺者の住居(居住地域)、職場等が地震又は津波により甚大な被害を受けたこと が遺族等の供述その他により判明したもの。 (5)その他、自殺の「原因・動機」が、東日本大震災の直接の影響によるものであるこ とが遺族等の供述その他により判明したもの。 1.男女別の震災関連自殺者数年次推移 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 計 男性 42 18 23 11 13 15 17 139 女性 13 6 15 11 10 7 9 71 合計 55 24 38 22 23 22 26 210 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 総計では、男性は女性の約2倍の自殺者数となっています。震災直後よりは減少しました が、ここ4年は横ばいで、残念ながら平成29年は平成28年よりも4人増加となってしまいま した。 2.年齢別の震災関連自殺者数年次推移 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 計 20歳未満 1 0 0 1 0 0 2 4 20歳代 4 2 4 1 1 1 2 15 30歳代 4 4 3 1 0 5 2 19 40歳代 4 3 6 4 4 4 2 27 50歳代 11 5 13 5 2 4 12 52 60歳代 19 5 2 7 5 5 3 46 70歳代 7 2 3 2 7 2 2 25 80歳以上 5 3 7 1 4 1 1 22 不 詳 0 0 0 0 0 0 0 0 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 平成29年は前年に比べて50歳代が8人増加し、他の年代よりも突出して自殺者数が多かっ たことが印象的です。このため、平成23年からの総計では、平成28年には60歳代が最も自 殺者の多い年代でしたが、平成29年には50歳代の自殺者数が最も多くなりました。 3.職業別の震災関連自殺者数年次推移 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 計 自営業者 10 3 1 1 2 1 2 20 被雇用者 13 5 10 3 3 8 4 46 無 職 32 16 27 18 18 13 19 143 不 詳 0 0 0 0 0 0 1 1 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 一般的な傾向と同様、無職が自営業者、被雇用者よりも大幅に多い割合を占めています。 全国の統計では、自殺者における無職の者の割合は62〜63%であることが多いのですが、 ここでは約67%とやや高めの割合となっています。 なお、平成29年は他の情報と照合して個人が識別されないよう秘匿処理された月があるた め、総計は少なくなっています。 4.無職の者の震災関連自殺者数内訳年次推移 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 計 学生生徒等 1 0 0 1 1 0 1 4 主 婦 3 0 6 3 1 2 3 18 失 業 者 6 3 3 1 0 3 1 17 利子等生活者 0 0 0 0 2 0 0 2 年金等生活者 14 7 7 6 10 7 5 56 その他無職者 8 6 11 7 4 1 9 46 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 無職者の内訳を自殺者全体の統計と比較すると、学生の割合が低く、主婦と失業者の割合 が高いようです。 5.動機・原因別の震災関連自殺者数年次推移 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 計 家庭問題 11 5 5 5 6 5 10 47 健康問題 17 11 22 11 13 13 10 97 経済問題 18 5 9 3 2 4 3 44 勤務問題 7 2 5 2 0 4 1 21 男女問題 0 0 1 1 1 1 0 4 学校問題 0 0 0 0 0 0 0 0 そ の 他 10 4 3 1 2 3 4 27 不 詳 16 5 8 6 8 5 10 58 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 健康問題が最も原因として多くあげられている点は全体の自殺統計と同じ傾向ですが、構 成割合としては自殺全体よりも低くなっています。その分、家庭問題とその他の構成割合 が高めになっています。 なお、原因・動機を3つまで計上可能としているため、総数と原因・動機別自殺者数の和 は一致しません。 6.地域別の震災関連自殺者数年次推移 (単位:人) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 計 岩 手 17 8 4 3 3 6 7 48 宮 城 22 3 10 4 1 8 5 53 福 島 10 13 23 15 19 7 12 99 その他 6 0 1 0 0 1 2 10 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 福島県の震災関連の自殺者数は、平成28年には1桁まで減ったのですが、平成29年は前年 比で7割増しになってしまい、震災直後と同程度となってしまいました。 「その他」は茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県、大阪府、京都府、新潟県の合計です。 平成29年は直接の被災地ではない県で3年ぶりに自殺者が出てしまいました。震災の影響 の深刻さをあらためて感じます。 ******************************************************************************** 【2】自殺について知ろう ◇福祉・経済政策と自殺率◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 平成18年に自殺対策基本法が制定されて以後、「個人の問題」とされがちであった自殺は 「社会の問題」であるという認識が広まってきました。自殺総合対策大綱においても、自 殺の背景には精神保健上の問題だけではなく、過労、生活困窮、育児や介護疲れ、いじめ や孤立などの様々な社会的要因があることが明記されています。 そこで、今回の「自殺について知ろう」では、行政による経済政策や福祉政策が実際に自 殺率の増減と関係あるのかどうかをパネルデータを用いて検証した、松林・上田による「 福祉・経済政策と自殺率−都道府県レベルデータの分析」という論文の内容をご紹介しま す。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 本論文は、1982年から2006年までの25年間におよぶ47都道府県のデータを用いて、経済・ 福祉政策と自殺率の関係を、自殺率を従属変数、経済・福祉政策の指標を説明変数とする 回帰分析により検証しています。 自殺率は、自殺のメカニズムや政策の効果が年齢や性別により異なっている可能性を考慮 するため、65歳未満と65歳以上に分けて、それぞれ全人口、男性のみ、女性のみの計6グ ループについて検証されています。 経済政策の指標としては、各都道府県に配分される行政投資の総額と、各都道府県内で支 出される失業対策費を使用しています。行政投資とは産業基盤・生活基盤の整備、国土保 全などを目的に国や地方自治体が行う公共投資的事業を指しますが、生活基盤への投資の 構成比が最も高く、40〜50%くらいを占めます。 自治体レベルの福祉政策の指標としては、民生費関連の歳出額と衛生費の歳出額を使用し ています。民生費の内訳は、社会福祉費、老人福祉費、児童福祉費、生活保護費です。社 会福祉費には障害者福祉及び福祉センターの管理運営に関わる経費などが含まれ、児童福 祉費には児童手当、児童福祉施設費、ひとり親家庭の自立支援などが含まれます。衛生費 は公衆衛生費、精神衛生費、環境衛生費など医療関係の経費を含みます。それぞれの費用 の性質を考えて、児童福祉費は65歳未満の自殺率を説明するモデルに加え、老人福祉費は 65歳以上の自殺率を説明するモデルに加えています。その他の費用は両方のモデルに加え ています。 また、経済・福祉政策費以外で自殺率に影響を及ぼすと考えられる、各年の都道府県1人 当たりの県民所得、完全失業率、ジニ係数(各都道府県内での所得格差を測ったもの)、 財政力指数、生活保護受給者の比率、雇用保険受給者率、離婚率、母子世帯の比率、高齢 単身世帯の比率、総人口、都市化度指数、15歳未満人口、65歳以上人口も説明モデルに加 えられています。 65歳未満の自殺率の分析結果では、自殺率と有意に負の関係、すなわちそれが増加すると 自殺率が減少する関係にあるのは、行政投資額、失業対策費、生活保護受給者比率、都市 化度でした。行政投資額は全人口と男性において有意に自殺率と負の関係があり、女性に おいても、有意ではありませんが負の関係でした。失業対策費も、全人口と男性において 自殺率と有意に負の関係でしたが、女性の自殺率には関係ありませんでした。これは失業 対策費の恩恵を受けるのは男性が多いからではないかとしています。 生活保護費などの福祉関連政策費は、65歳未満においては自殺率と有意な関係にはありま せんでした。しかし、男性は生活保護受給者比率の増加は自殺率の低下と結びついていま した。生活保護を必要とする人がより多く受給することが自殺率の低下を伴ったと考えら れます。他に、男性の場合は県の都市化度が高いほど自殺率が低い傾向がありました。 逆に65歳未満において自殺率と正の関係にあるのは、完全失業率と離婚率でした。失業率 の上昇は全人口と男性において自殺率の増加を伴いました。一方、各都道府県の経済格差 (ジニ係数)は自殺率には関係ないという結果でした。離婚率の上昇は全人口と女性にお いて自殺率の増加を伴いました。やはり離婚の影響をより受けやすいのは女性であること が分かります。 65歳以上においては、自殺率と関係がみられたのは社会福祉費と生活保護費だけで、65歳 未満において自殺率と関係のあった行政投資額はまったく関係ないという結果でした。こ れは65歳以上の人々が雇用機会の拡充などの公共投資の直接の恩恵を受けないことによる と考えられます。この年代は働いていない人が多いと考えられるため、同様に失業対策費 も自殺率に対して有意な関係はありませんでした。65歳以上全人口では、生活保護費の増 加と自殺率に負の関係が見られましたが、このような関係は65歳未満では見られなかった のと対照的です。社会福祉費の増加は65歳以上の男性において自殺率の増加を伴うという 結果が出ましたが、これは社会福祉費の増額が自殺率を増加させるのではなく、自殺率が 高いと社会福祉費が増えるからではないかとのことです。 まとめますと、公共投資・失業対策費の額は自殺率と負の関係にあり、自殺率の減少傾向 は特に65歳以下の男性に強く認められました。また、生活保護費などの福祉政策の拡充は 、65歳以上人口の自殺率の低下をもたらす可能性が示されました。年代別の結果を比較す ると、65歳未満人口の自殺率に関しては行政投資額、失業対策費など経済政策との関連性 が高いのに対し、65歳以上人口にとっては経済政策よりも福祉政策の方が自殺防止に効果 的である可能性が明らかになりました。特に、65歳以上人口にとっては生活保護の拡充が 非常に重要であることが示唆されています。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 本論文を読んで、経済・福祉政策の有り様と自殺率が関係あることがデータによって実証 されていることに感心しました。回帰係数の値など、正確で詳細な内容は下記文献を直接 ご覧ください。なお、本論文は学術論文で難解な部分も多いことから、変数の設定のしか たなど細かい部分の省略や、適宜言い換えなどさせていただいていることをご了承くださ い。 引用文献 松林哲也・上田路子(2013)「福祉・経済政策と自殺率−都道府県レベルデータ の分析」日本経済研究No.69、96-109。 ******************************************************************************** 【3】お知らせ ◇ 精神保健福祉センターでは、こころの電話相談を次の時間帯で行っています。 月曜から金曜日 9:00〜21:00 土曜日曜祝日(12月29日〜1月3日を除く) 10:00〜16:00 Tel:0570-064-556 ※ご相談の電話が集中しますと、つながりづらい状態になりますがご了承ください。 ◇ HP・携帯版HPをご覧ください 北海道地域自殺対策推進センターのHPを開設しています。最新の北海道の状況を掲載して おり、より情報を見やすく、分かりやすくお伝えできるよう心がけています。 パソコンHP URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/jisatutaisaku.htm また、携帯電話で見ることができる携帯版HPも開設しています。警察庁および北海道警察 から公表された統計資料をもとに、北海道における自殺の状況を掲載しています。こちら も併せてご覧ください。 携帯HP URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/i/joukyou.htm ******************************************************************************** 【4】編集後記 皆様、こんにちは。 3月は自殺対策強化月間でした。また、東日本大震災があった月でもあり、人の命につい て思いを馳せる月であったような気がします。先日放送されたNHKの番組では、震災時3歳 だった女の子が5年後に震災の記憶に耐えかねて心身に不調を来たした例が紹介されてい ました。つらい記憶は後々にまでこんなにも大きな影響があるのだとあらためて驚きとと もに強く認識させられました。 Andanteは来年度から編集員が一部交代します。引き続きのご愛読をどうぞよろしくお願 い申し上げます。 次号Vol.106は、2018年4月末に配信予定です。 *お問い合わせ先* 北海道立精神保健福祉センター 札幌市白石区本通16丁目北6番34号 Tel 011-864-7121 Fax 011-864-9546 URL http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/ Mail hofuku.seishin1@pref.hokkaido.lg.jp