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[北海道]                                 H30.7.31
・゚・*:.。..。.:*・゜゚・*:.。..。.:*・゚* Andante **・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。  Vol.109
              〜北海道の自殺対策について〜

 Hokkaido                  発行:北海道地域自殺対策推進センター
 Government                 (北海道立精神保健福祉センター内)
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※『Andante:アンダンテ』とは
「ゆっくりと歩くくらいの速さで」という意味の音楽用語です。ゆっくりと自分にとって
適度なスピードで歩いているとき、私達の視野はいつもよりぐっと広がり、忙しく過ごす
中では見過ごしがちなものに気が付くことがあります。北海道地域自殺対策推進センター
では、皆さんと共に歩いていけるような「Andante」を配信していきたいと考えています
。
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− 目 次 −
【1】 北海道における自殺の現状
◇ 平成30年6月末の自殺者数(暫定値)[警察庁]
◇ 平成30年1月〜6月の累計自殺者数(暫定値)[警察庁]
【2】 自殺について知ろう
◇ NOCOMIT-Jについて(3)
【3】 お知らせ
◇ こころの電話相談
◇ HP及び携帯HPをご覧ください
【4】 編集後記
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【1】北海道における自殺の現状

◇平成30年6月末の自殺者数(暫定値)[警察庁]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

警察庁より平成30年6月末の月別自殺者数の暫定値が発表されました。
平成30年6月の北海道の自殺者数は86人でした。また、全国の自殺者数は1,686人、
そのうち男性は1,161人、女性は525人でした。
以下に、北海道および全国の前月比と前年同月比の自殺者数を示します。

1.平成30年6月末と平成30年5月末の月別自殺者数の比較        (単位:人)
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        北海道   全国    全国(男性) 全国(女性)
H30年6月     86    1,686     1,161      525
H30年5月     92    1,832     1,236      596
前  月  比      -6    -146      -75      -71
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平成30年6月の自殺者数は、前月比で北海道、全国、全国男性、全国女性のすべてにおい
て減少しました。
都道府県別では、自殺者数が増加したのは9、減少したのは36、変化なしは2でした。

2. 平成30年6月末と平成29年6月末の月別自殺者数の比較       (単位:人)
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        北海道   全国    全国(男性) 全国(女性)
H30年6月     86    1,686     1,161     525
H29年6月     95    1,869     1,287     582
前 年 比     -9    -183     -126     -57
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
前年同月比では、北海道、全国、全国男性、全国女性のすべてにおいて減少しました。
また、都道府県別でみると、自殺者数が増加したのは15、減少したのは32、変化なしは0
でした。

◇平成30年1月〜6月の累計自殺者数(確定値) [警察庁]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回は、全国及び北海道の平成30年の半年(1月〜6月)中の自殺者数についてまとめます。

1.平成30年と平成29年北海道と全国の半年間の自殺者数         (単位:人)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
         北海道     全国     男性(全国)     女性(全国)
H30(暫定値)    490     10,519     7,271       3,248
H29(確定値)    527     11,209     7,767       3,442
前  年  比      -37      -690      -496       -194 
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

平成30年1月〜6月中の自殺者数は前年に比べ、北海道、全国、全国男性、全国女性のすべ
てにおいて減少しています。

2.平成30年と平成29年の北海道における半年間の月別自殺者数      (単位:人)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
            1月   2月   3月   4月   5月   6月
H30(暫定値)     70   64    97    81   92     86
H29(確定値)     85   78    86    79   104    95
前  年  比       -15   -14   +11   +2   -12    -9
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
月別では、平成30年の1〜6月の北海道で自殺者が最も多かったのは3月の97人でした。最
も少なかったのは2月の64人でした。また、前年よりも月別自殺者数が増加したのは3月、
4月でした。他の月は減少しました。

3.平成30年と平成29年全国における半年間の月別自殺者数       (単位:人)
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           1月    2月    3月    4月    5月    6月
H30(暫定値)   1,634   1,587    1,983   1,797   1,832   1,686
H29(確定値)   1,815   1,646    1,915   1,940   2,024   1,869
前  年  比      -181   -59     +68    -143   -192   -183
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
月別に見ると、平成30年の全国で自殺者数が最も多かったのは3月の1,983人、最も少なか
ったのは2月の1,587人でした。また、前年よりも月別自殺者数が増加したのは3月でした
。他の月は減少しました。

参考資料:警察庁自殺統計


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【2】自殺について知ろう

◇NOCOMIT-Jについて(3)◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今回も前回に引き続きNOCOMIT-Jについてご紹介させていただきます。前回はNOCOMIT-Jの
具体例についてお伝えしました。連載最後となる今回は、実際に取り組まれてきた研究と
してプログラム導入の詳細や成果、今後の課題についてまとめていきたいと思います。

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<プログラム導入についての詳細>
まず、研究の実施内容について説明します。自殺死亡率が長年にわたって高率な地域(青
森、秋田、岩手、南九州の4地域11地区:介入地区と対象地区の総人口約63万人)におい
て、一次、二次、三次予防対策が詳細に提示された介入プログラムを実施し、通常の自殺
対策を行った対象地区と比較して、自殺企図の発生(自殺死亡者及び自傷行為(重傷ない
し中等症)による救急搬送車の頻度)に効果があるかどうかを検討しました。対象地区で
は、通常の自殺対策が実施されました。

同時に、自殺が増加しつつあった都市部近郊の人口密集地域(仙台地区、市川地区、北九
州地区:介入地区と対象地区の総人口約132万人)においても同様に効果の検証を行って
います。このように、通常の予防介入を行っている近隣の地域と自殺企図率の違いを検証
したこともこの研究の特徴です。

本研究では、データの解析を、介入前後の比較ではなく、事象のrate ratio(率比)を地
区、性別、年齢、期間で調整した後に、研究班とは独立した専門の統計家がintention-no
-treat分析(「介入の意図」による分析)を用いて、効果とプログラム実施率を中心に行っ
ています。

<研究の成果と今後の課題>
自殺死亡率が長年にわたって高率な地域では、プログラム実施率は対象地区よりも明らか
に高いことがわかりました。成果としては、男性群と65歳以上の高齢者群では、約20%の
自殺企図の減少効果が明確となり、強い自殺予防効果が得られることが明らかとなりまし
た。その後、地域自治体、民間団体、自殺対策研究者らが築き上げたネットワークが自殺
対策にとどまらず地域の社会づくりに貢献していることがわかっています。また、自損行
為(重傷〜中等症)による救急搬送の発生予防効果は、男性と、65歳以上の高齢者におい
て60%を超えるものとなりました。このことで、救急医療施設の医療経済的負担が大きく
減少しています。心理・社会的問題を背景とした苦悩が大きく減少したことを示していま
す。しかし、自殺死亡発生率は、男性と65歳以上の高齢者においても対象地域と有意な差
はありませんでした。この結果は、致死率の高い状況で自殺未遂をはかるハイリスクグル
ープの存在を示しています。このことからハイリスクアプローチによる対策を開発し、実
施する必要性があります。一方で、女性および若年者では、はっきりとした効果が認めら
れず、さらなる検討が必要となってきます。

一方、近年自殺が増加している人口規模の大きな都市部近郊の自殺企図の発生率は、対象
地区と比較して同等でした。これらの地域でのプログラム実施率は対象地区と有意な差が
みられず、そのことが結果に影響している可能性があります。都市部で今回のプログラム
の効果が見られなかったことは、都市部における人的資源や地域におけるネットワークの
不足など地域の特性が影響している可能性が考えられています。

今回の研究から、性別や世代、地域の特性によって効果に違いがあることがわかります。
特に、近年の自殺者傾向において女性、若年者が増加しています。女性や若年者に対して
は、これまでの自殺対策の効果が期待できず、「自殺をタブー視しない」という自殺予防
の啓発運動が、かえって自殺を誘発するリスクを伴う可能性があることを示しています。

特に、都市部ではプログラム実施率が低く、複合的な介入の効果が認められなかったこと
から、障がい者や高齢者など生活弱者に的を絞った介入が必要であると考えられます。
「こころの健康についての疫学調査に関する研究」班(主任研究者:川上憲人氏)によれ
ば、協力地域住民4,134人中、調査時点までの生涯では5〜6人に1人、調査時点からの過去
12ヶ月では13〜14人に1人が1つ以上の精神障がいを経験していたということがわかってい
ます。しかし、調査時点からの過去12ヶ月間に何らかの精神障がいを経験した人のうち受
診・相談経験があった人は17%、過去30日では約6〜7%と極端に低いことがわかっていま
す。

これは、本当に治療が必要な人に適切な支援が行われていない可能性を示しています。精
神症状のため苦しんでいる人が最初に受診するのは一般科ではなく、精神科が多く、精神
科医療の役割の重要性がうかがえます。また、大都市での自殺者の実態を見ると、すでに
精神科などの医療機関を受診している人が3分の2をしめていることがわかっています。こ
れまで自殺対策では、医療機関の受診を勧める活動が推奨されてきましたが、それだけで
は不十分であり、受診者を地域で支える仕組み作りが不可欠ということがわかります。

NOCOMIT-Jでは、特に新しい介入方法が特別に実施されている訳ではなく、これまで行わ
れてきた活動を総合的に展開しているものとなっています。しかし、総合的・包括的なア
プローチを確実に実施している自治体はまだほとんどなく、効果が確認されているこれら
のアプローチをしっかりと地域に根付かせていくことが重要です。

自殺対策をより効果的に推進するために、自殺が追いこまれた末に選択されるものであ
り、「自殺対策は社会や地域の課題である」という認識を共有し地域の協力体制を形成す
ることが重要です。そこでは、地域住民それぞれが当事者意識を持ち、主体的にこころの
健康対策や自殺対策に取り組めるような地域基盤を整備するとともに、悩みを抱えた人た
ちが孤立しないような、人と人とのつながりを大切にする地域づくりをすすめていくこと
が大切となってきます。

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3回にわたってNOCOMIT-Jについて紹介してきました。これから市町村自殺対策計画の策定
もあり、より地域みんなで考えていくという認識が重要になってくるのではないかと思い
ます。

引用文献
大野裕(2015)「自殺対策の効果と、その評価(3)−複合的自殺対策プログラムの自殺企
図予防効果に関する地域介入研究NOCOMIT-J」,本橋豊編,『よくわかる自殺対策』,24-28,
ぎょうせい.
大野裕(2010)『NOCOMIT-J−地域における自殺対策プログラム』.
厚生労働省 『「自殺対策のための戦略研究」全体像』.

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【3】お知らせ

◇ 精神保健福祉センターでは、こころの電話相談を次の時間帯で行っています。
月曜から金曜日                    9:00〜21:00
土曜日曜祝日(12月29日〜1月3日を除く)   10:00〜16:00
Tel:0570-064-556
※ご相談の電話が集中しますと、つながりづらい状態になりますがご了承ください。

◇ HP・携帯版HPをご覧ください
北海道地域自殺対策推進センターのHPを開設しています。最新の北海道の状況を掲載して
おり、より情報を見やすく、分かりやすくお伝えできるよう心がけています。
パソコンHP  URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/jisatutaisaku.htm

また、携帯電話で見ることができる携帯版HPも開設しています。警察庁および北海道警察
から公表された統計資料をもとに、北海道における自殺の状況を掲載しています。こちら
も併せてご覧ください。
携帯HP  URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/i/joukyou.htm

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【4】編集後記

皆様、こんにちは。
蝦夷梅雨も明け、本格的に暑くなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。これから
夏本番。北海道の夏は短いですが、一年でもっとも暑い時期になります。お出かけする機
会も多くなるかと思いますが、熱中症などにはくれぐれもお気をつけてお過ごしくださ
い。

いつもご愛読ありがとうございます。
次号Vol.110は、2018年8月末に配信予定です。

                                                        *お問い合わせ先* 
                                                北海道立精神保健福祉センター
                                               札幌市白石区本通16丁目北6番34号
                                                              Tel 011-864-7121
                                                              Fax 011-864-9546
                                    URL  http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/
                                    Mail   hofuku.seishin1@pref.hokkaido.lg.jp

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