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[北海道]                               R3.12.31
・゚・*:.。.:*・゜゚・*:.。..。.:*・゚* Andante **・゜゚・*:.。...:゚・*:.。         Vol.150
              〜北海道の自殺対策について〜

 Hokkaido                  発行:北海道地域自殺対策推進センター
 Government                 (北海道立精神保健福祉センター内)
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※『Andante:アンダンテ』とは
「ゆっくりと歩くくらいの速さで」という意味の音楽用語です。ゆっくりと自分にとって
適度なスピードで歩いているとき、私達の視野はいつもよりぐっと広がり、忙しく過ごす
中では見過ごしがちなものに気が付くことがあります。北海道地域自殺対策推進センター
では皆さんと共に歩いていけるような「Andante」を配信していきたいと考えています。
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− 目 次 −
【1】 北海道における自殺の現状
◇ 令和3年11月末の自殺者数(暫定値)[警察庁]
◇ 令和2年全国における死因順位 [人口動態統計]
【2】 自殺について知ろう
◇ 自殺予防について〜物理的な制限〜
【3】 お知らせ
◇ こころの電話相談
◇ HPをご覧ください
【4】 編集後記
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【1】北海道における自殺の現状

◇令和3年11月末の自殺者数(暫定値)[警察庁]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇
 警察庁より令和3年11月末の月別自殺者数の暫定値が発表されました。
 令和3年11月の北海道の自殺者数は81人でした。また、全国の自殺者数は1,541人、その
うち男性は1,012人、女性は529人でした。
 以下に、北海道および全国の前月比と前年同月比の自殺者数を示します。

1.令和3年11月末と令和3年10月末の月別自殺者数の比較
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令和3年11月<北海道  81人、全国 1,541人、全国(男性) 1,012人、全国(女性) 529人>
令和3年10月<北海道  91人、全国 1,639人、全国(男性) 1,099人、全国(女性) 540人>
前 月 比 <北海道  -10人、全国  -98人、全国(男性)  -87人、全国(女性) -11人>
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 令和3年11月の自殺者数は、前月比では、北海道、全国、全国(男性)、全国(女性)
のすべてにおいて減少でした。都道府県別では、自殺者数が増加したのは18、減少したの
は29、変化なしは0でした。

2. 令和3年11月末と令和2年11月末の月別自殺者数の比較
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令和3年11月<北海道  81人、全国 1,541人、全国(男性) 1,012人、全国(女性)  529人>
令和2年11月<北海道  82人、全国 1,893人、全国(男性) 1,242人、全国(女性)  651人>
前 年 比 <北海道  -1人、全国  -352人、全国(男性)  -230人、全国(女性) -122人>
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 前年同月比では、北海道、全国、全国(男性)、全国(女性)のすべてにおいて減少で
した。また、都道府県別でみると、自殺者数が増加したのは9、減少したのは36、増減な
しは2でした。


◇令和2年全国における死因順位[人口動態統計]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 今回は厚生労働省『人口動態統計』より令和2年中の全国および北海道における死因順
位をご紹介します。

1.  令和2年全国における死因順位と死亡総数
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        総数        男性        女性
第1位  悪性新生物<腫瘍> 悪性新生物<腫瘍>  悪性新生物<腫瘍>
       378,385人     220,989人      157,396人
第2位    心疾患        心疾患       心疾患
       205,596人     99,304人      106,292人
第3位     老衰       脳血管疾患      老衰
       132,440人     50,390人      96,661人
第4位    脳血管疾患      肺炎       脳血管疾患
       102,978人     44,902人      52,588人
第5位     肺炎        老衰        肺炎
        78,450人     35,779人      33,548人
第6位     誤嚥性肺炎        誤嚥性肺炎     誤嚥性肺炎
        42,746人     25,081人      17,665人
第7位    不慮の事故     不慮の事故     不慮の事故
        38,133人     21,944人     16,189人
第8位      腎不全      腎不全     アルツハイマー病
        26,948人     13,961人     13,608人
第9位  アルツハイマー病     自殺      血管性等の認知症
        20,852人     13,588人     13,169人
第10位  血管性等の認知症  慢性閉塞性肺疾患     腎不全
        20,815人     13,465人     12,987人
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 全国の総数において死因として最も多いのは「悪性新生物」で、全死因中の27.6%を占
めています。つぎに「心疾患」、「老衰」と続きます。総数の「自殺」は上位10位圏外
で、死亡数20,243人でした。1953年以来、令和元年以降「自殺」が上位10位圏外になって
います。ただ、総数の第10位の人数との差は572人なので、上位10位圏外ではあるもの
の、自殺の順位はおそらくそれほど低くないと考えられます。男女別順位は、男性が
9位、女性が上位10位圏外(6,655人)でした。
 なお、北海道における自殺の順位は上位10位圏外(881人)でした。

2. 令和2年全国における自殺の年齢別死因順位
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年齢 10-14歳 15-19歳 20-24歳 25-29歳 30-34歳 35-39歳 40-44歳
順位  1位     1位    1位   1位     1位   1位   2位

   45-49歳 50-54歳 55-59歳 60-64歳 65-69歳
    2位      3位    4位   5位    7位
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 令和2年の全国における全死因中の自殺の死因順位は、10~39歳までの年齢において1位
となっています。また、40~49歳において2位、50~54歳において3位となっており、10~69
歳までの幅広い年齢層において死因順位10位以内に入っています。

 令和2年における自殺の死因順位は令和元年に引き続き、10位圏外となっています。し
かし、令和元年に2位だった10-14歳の死因順位が、令和2年には1位となりました。その他
の年齢の死因順位は令和元年と同一で、自殺の死因順位の総数が10位圏外でも、自殺者は
決して少なくないといえます。
 自殺の背景には複数の問題が見られることが多く、健康問題や経済的問題、対人関係の
悩み等、様々な分野での困難が見られます。「誰も自殺に追い込まれることのない社会の
実現」のために、様々な領域の支援が広がることが期待されます。

参考文献
厚生労働省、「人口動態統計」、2021

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【2】自殺について知ろう

◇自殺予防について〜物理的な制限〜◇◇◇◇
 今日、自殺予防という観点で様々な研究がされています。WHOは自殺の予防方法とし
て、特に重要な事項を@自殺手段のアクセス制限とヘルスケアへのアクセス促進、Aゲー
トキーパー活動、B精神障害のアセスメントとマネジメントを挙げています。@にある自
殺手段のアクセス制限とは、認知的アクセス制限(自殺に関する報道の制限)と物理的ア
クセス制限(駅にホームドア設置など)の2つからなります。ホームドアとは、駅とプラ
ットホームの間に設置され、壁の一部が車両の扉と連動して開閉される柵のことをいいま
す。
 今回は、物理的アクセス制限についてご紹介します。

 『自殺対策の新しい形 インターネット、ゲートキーパー、自殺予防への態度』(末
木,2019)によると、「薬物の包装方法の変更、農薬・木炭・銃といった、自殺企図に利
用可能なものの入手制限やホームドアの設置など、物理的な方法で自殺企図方法へのアク
セス可能性の低減が自殺率の低減にかなり有効」とされています。
 例えば、『自殺予防学』(河西,2009)では、香港で行われた実験で「自殺率がほぼ同
じである2つの地域のうちホームセンターにおいて、1つの地域を店員に声をかけなければ
練炭を入手できないように、もう1つの地域をこれまで通り客が自由に入手できる形で販
売を続けた結果、店員が練炭を取り出した地域は、もう一方の地域より練炭自殺の件数が
著しく減少し、その地域全体の自殺者数も減っていた」という結果が述べられています。
 この結果から、「自殺を考えた人が練炭を買いにホームセンターに訪れたが、店員に声
をかけられず、練炭自殺という方法が抑制されたこと」と、「抑制された後に他の自殺手
段への移行も起こらず、自殺者数全体の減少に繋がった」という2つが結論として挙げ
られています。このように、いわゆる自殺の名所の物理的な制限(橋やダムに柵を設置す
る等)をした地域では、しばしば自殺者数の減少が確認されているといいます。
 自殺を考えている人は、ふと自殺の衝動に駆られると、その場で最も利用しやすい方法
を実行してしまうといわれています。自殺の手段が手に入りやすいほど(手段のアクセス
性)、扱いやすいほど(手段の利便性)、自殺は実行されやすいといえるでしょう。

 現在日本で最も問題になっている自殺の名所のひとつは、電車のホームです。首都圏で
は、電車のホームには誰でも立ち入ることができ(高アクセス性)、一歩踏み出してホー
ムに落ちることで容易に自殺が実行されてしまう(高利便性)ことから、電車のホームで
の飛び込み自殺が多いとされています。さらに、『札幌市営地下鉄における投身事故の疫
学』(西,2005)では、自殺する目的のみで地下鉄駅に行く者は多くなく、通勤・通学な
どで日ごろ地下鉄を利用している者が、通勤等の目的で「いやいや」駅に行き、衝動的に
自殺する例が多いのでは、とも指摘しています。
 2021年現在、北海道では地下鉄や新幹線の駅にホームドアが設置されています。ホーム
ドアは自殺対策の他にも、ホームからの転落事故を防止するために、長年設置を求める声
が続いていました。札幌市営地下鉄では2008年にホームドアの設置を始め、2017年に全線
の設置が完了しています。札幌市営地下鉄において物理的にアクセスが制限されるホーム
ドアが設置されたことで、札幌でも飛び込み自殺の予防になったのでしょうか。
 札幌市交通局によると、2005年から2020年の札幌市営地下鉄における生存・未遂を含む
人身事故件数は、東西線12件、南北線28件、東豊線15件でした。2009年に東西線、2012年
に南北線、2017年に東豊線のホームドアの設置が完了しており、各線のホームドア設置を
した年以降から2020年までの生存・未遂を含む人身事故件数は、東西線3件、南北線4件、
東豊線2件となっています。設置前と設置後それぞれの各路線1年の平均をみると、東西線
2.25件→0.25件、南北線3件→0.5件、東豊線1件→0.67件と、ホームドア設置後、各線に
おいて人身事故件数は減少していることがわかりました。

 一方で、「一つの方法を潰しても、他の方法で自殺してしまうのではないか?」、「一
時的に止めても、また行動化するのでは?」などの疑問が生じるかもしれません。これに
ついても河西の『自殺予防学』で述べられていますが、前述の練炭の研究でもあったよう
に、一つの自殺手段を取りにくくした結果、自殺者数は減っていました。このように、自
殺の手段が入手しにくかったり、行動化されにくくすると、一時的にでも時間を稼ぐこと
ができます。その時間は、自殺したい人が支援につながるといった変化の可能性が生まれ
る時間です。

 以上のことから、自殺の予防方法として物理的アクセス制限であるホームドアの設置に
は、札幌市営地下鉄の人身事故件数から見ても、効果があると考えられます。一方で、ホ
ームドア設置後の人身事故件数が0ではなかったことから、ホームドア設置だけで飛び込
み自殺が100%抑制されるわけではないといえます。
 ホームドア設置といった物理的アクセス制限には効果があるといえますが、物理的アク
セス制限だけでなく、他にも様々な方法を組み合わせることによって、自殺予防の効果が
高まると考えられます。
 最後になりましたが、今回データを提供してくださった札幌市交通局の関係者の皆様
に、心より感謝致します。


参考文献・資料
河西千秋、『自殺予防学』、新潮選書、2009
末木新、『自殺の予防と心理学−展望とその課題−』心理学評論Vol.60.No.4、2017
末木新、『自殺対策の新しい形 インターネット、ゲートキーパー、自殺予防への
態度』、ナカニシヤ出版、2019
高森衛、『札幌地下鉄駅ホーム人身事故と安全柵整備の社会的費用の研究』、
交通権No.24、2007
西基『札幌市営地下鉄における投身事故の疫学』、厚生の指標第52巻第4号、2005 
札幌市交通局『札幌市営地下鉄における投身事故件数』、資料提供、2021

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【3】お知らせ

◇ 精神保健福祉センターでは、こころの電話相談を次の時間帯で行っています。
 月曜から金曜日                        9:00〜21:00
 土曜日曜祝日(12月29日〜1月3日を除く)          10:00〜16:00
 Tel:0570-064-556
 ※ご相談の電話が集中しますと、つながりづらい状態になりますがご了承ください。

◇ 今年8月末から、北海道でも、こころのSNS(LINE)相談が開始されました。
 詳しくは、下記のリンクをご覧ください。

北海道こころの健康SNS相談窓口: https://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/shf/linesoudan
.html

◇ ホームページをご覧ください
 北海道地域自殺対策推進センターのホームページを開設しています。最新の北海道の状
況を掲載しており、情報を見やすく、分かりやすくお伝えできるよう心がけています。 
 また、Andanteのバックナンバーへのリンクもございますので是非ご覧ください。
 なお、現在北海道精神保健福祉センターのホームページが新バージョンへの移行作業中
のため、ホームページ内のレイアウトが見づらくなっている場合があること、あらかじめ
ご了承ください。

 ホームページURL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/jisatutaisaku.htm

◇ メールマガジンのご登録内容の変更や解約手続きにつきましては、以下のリンクから
行っていただけます。

 北海道のメールマガジンURL:http://www1.hokkaido-jin.jp/mail/magazine/

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【4】編集後記

 早いもので、今年も残りわずかになりました。今年を振り返ると、主に感染症がらみの
出来事が真っ先に思い浮かびましたが、皆様はどのような1年でしたでしょうか。夏の猛
暑が遙か昔のように感じますが、来年の夏には今の寒さが遠い出来事に感じるのでしょう
ね。自然の猛威に振り回されながら、暑い日にちょっと贅沢なアイスクリームとか、寒い
日の温かいお布団の中といった小さな喜びを積み重ねて、来年も穏やかに過ごしていきた
いです。皆様が穏やかな年末年始を迎えられることを願っております。来年も、何卒よろ
しくお願いいたします。

いつもご愛読ありがとうございます。
次号Vol.151は、令和4年1月末に配信予定です。

                                              *ご質問、ご要望等お問い合わせ先*
                                                    北海道立精神保健福祉センター
                                                 札幌市白石区本通16丁目北6番34号
                                                                Tel 011-864-7121
                                                                Fax 011-864-9546
                                      URL http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/
                                       Mail hofuku.seishin1@pref.hokkaido.lg.jp