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[北海道]                                H26.10.31
・゚・*:.。..。.:*・゜゚・*:.。..。.:*・゚* Andante **・゜゚・*:.。..。.:*・゚・*:.。  Vol.064
              〜北海道の自殺対策について〜

 Hokkaido                  発行:北海道地域自殺予防情報センター
 Government                 (北海道立精神保健福祉センター内)
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※『Andante:アンダンテ』とは
「ゆっくりと歩くくらいの速さで」という意味の音楽用語です。皆さんは最近、ゆっくり
と歩いてみたことはありますか?ゆっくりと自分にとって適度なスピードで歩いていると
き、私達の視野はいつもよりぐっと広がり、忙しく過ごす中では見過ごしがちなものに気
が付くことがあります。月に一度「Andante」が届くたびに、皆さんがふっと一息つき、
少しの時間だけでもゆっくり歩くことを思い出していただけたらと考えています。
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− 目 次 −
【1】 北海道における自殺の現状
◇ 平成26年9月末の自殺者数(暫定値)[警察庁発表]
◇ 北海道の自殺に関する標準化死亡比[北海道健康づくり財団]
【2】 自殺対策について知ろう
◇ 性的マイノリティと自殺
【3】 お知らせ
◇ こころの電話相談
◇ HP及び携帯HPをご覧ください
【4】 編集後記

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【1】北海道における自殺の現状

◇平成26年9月末の自殺者数(暫定値)[警察庁発表]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
警察庁より平成26年9月末の月別自殺者数の暫定値が発表されました。
平成26年9月の北海道の自殺者数は94人でした。また、全国の自殺者数は2,239人、そのう
ち男性は1,534人、女性は705人でした。
以下に、北海道および全国の前月比と前年同月比の自殺者数を示します。

1. 平成26年9月末と平成26年8月末の月別自殺者数の比較 (単位:人)
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H26年 9月<北海道 94人、全国 2,239人、全国(男性) 1,534人、全国(女性) 705人>
H26年 8月<北海道 109人、全国 2,172人、全国(男性) 1,419人、全国(女性) 753人>
前 月 比  <北海道 -15人、 全国 +67人、  全国(男性) +115人、全国(女性) -48人>
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平成26年9月の自殺者数は、前月比では全国・全国男性において増加、北海道・全国女性
において減少しました。また、都道府県別でみると、自殺者数が増加したのは26、減少し
たのは19、増減なしが2でした。

2. 平成26年9月末と平成25年9月末の月別自殺者数の比較 (単位:人)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
H26年 9月<北海道 94人、全国 2,239人、全国(男性) 1,534人、全国(女性) 705人>
H25年 9月<北海道 99人、全国 2,245人、全国(男性) 1,550人、全国(女性) 695人>
前 年 比 <北海道 -5人、全国 -6人、全国(男性) -16人、全国(女性) +10人>
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
前年同月比においては全国女性において増加、北海道・全国・全国男性において減少しま
した。また、都道府県別でみると、自殺者数が増加したのは23、減少したのは22、増減な
しは2でした。

◇北海道の自殺に関する標準化死亡比[北海道健康づくり財団]◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

自殺について語る上でよく用いられる「自殺死亡率」は高齢者の多い地域では高く、若者
の多い地域では低くなる傾向にあるため、異なった年齢構成の地域間の比較には適してい
ない場合があります。そこで今回のAndanteでは、そのような年齢構成の影響を除去した
指標である標準化死亡比(以下SMR)を用いて北海道の自殺の状況を見てみます。SMRとは
その地域が全国平均並の死亡状況であった場合の死亡数に対して実際の死亡
数がどの程度なのかを計算したものです。全国平均のSMRは100です。
北海道の市区町村の中で、過去10年間(平成15年〜平成24年)の自殺が死因によるSMRが
低い順に10地域を見てみると、以下のようになります。この表は男女総合SMRの順に並ん
でいますが、横に男性、女性ごとのSMRもそれぞれ記載しました。

     男女総合 男性  女性
神恵内村  0.0   0.0   0.0 
赤井川村  31.3  42.8  0.0 
音威子府村 37.9  50.2  0.0 
利尻町   41.8  39.2  48.2 
寿都町   43.3  61.6  0.0 
礼文町   48.1  66.8  0.0 
黒松内町  49.1  53.3  39.6 
利尻富士町 50.5  18.0  126.8 
初山別村  54.9  77.8  0.0 
中川町   56.6  51.8  69.7

ただ、この標準化死亡比は人口規模が小さい地域では自殺者数のわずかな増減に大きく
影響される場合があります。また、わずかな自殺者数ではその死の原因は一般化しにくい
ため、必ずしも地域を代表する数値として用いることはできない点などに注意する必要が
あります。

そこで今度は北海道の人口10万人以上の地域および北海道全体の過去10年間(平成15年〜
平成24年)のSMRを見てみましょう。
                 
(人口)      男女総合 男性  女性
北海道(5,441,079)109.7   111.7  105.0
札幌(1,921,070) 100.0   100.2  99.4
旭川(348,378)  110.5   115.3  99.8
函館(273,712)  122.6   126.8  113.5
釧路(179,754)  121.3   123.3  116.6
苫小牧(174,024) 116.9   123.6  99.8
帯広(168,614)  114.6   115.2  113.1
小樽(126,781)  83.0    92.0  63.9
北見(123,074)  116.4   121.0  105.2
江別(120,439)  88.9    89.1  88.2

この表を見ると、札幌市がちょうど全国平均(100)と同程度のSMRであることが分かりま
す。また、北海道は全国に比べSMRが高い地域が多い中、小樽市や江別市がSMRの低い
地域であることが分かります。自殺が多い地域において十分な予防対策をとることと同時
に、これらの自殺が少ない地域に焦点を当て、その理由を探っていくことも、大切な自殺
対策です。

 [参考文献]
北海道における主要死因の概要8(2014.04, 北海道健康づくり財団)
住民基本台帳人口・世帯数 平成26年(2014.01, 北海道総合政策部地域行政局市町村課
調)

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【2】自殺対策について知ろう

◇性的マイノリティと自殺◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

これまで国内外の研究から、性的マイノリティの人々の自殺念慮(自殺率)の高さが明ら
かにされています。日本では平成24年の自殺総合対策大綱の中で初めて性的マイノリティ
に関して触れられ、性的マイノリティであることが生活困窮や児童虐待、性暴力被害、ひ
きこもりなどと同様、自殺の要因となりうること、その予防には精神保健的な視点に加え
て、社会・経済的な視点を含む包括的な取り組みが必要だということが言及されました。
しかし、現在の日本社会では誤解や偏見、差別が根強く残っており、差別をなくす為の社
会環境改善の取り組みが遅れています。今回のAndanteでは、このような性的マイノリテ
ィと自殺の関係について触れてみたいと思います。

性的マイノリティ(性的少数者、セクシャル・マイノリティ)とは何らかの意味で性のあ
り方が典型的ではなく、「異性を愛するのがあたりまえ」「心と体の性が違うことはあり
えない」「性別は男と女だけだ」としている社会からみて少数者という意味です。そのど
れもが、かつて考えられていたような「異常」や「病気」ではなく、そのあり方は多様で
あり、どれもが尊重されるべき個性です。具体的には、自覚される性別と性的指向が同じ
ゲイ・レズビアン(同性愛者)、性的指向が男女どちらにも向く、あるいは同性か異性か
ということを問わないバイセクシャル(両性愛者)、生物学的性と自覚的性が一致しない
トランスジェンダー(いわゆる身体の性別と心の性別が一致せず違和感を持つ人。あるい
は既存の性の枠組みに疑問を呈し、それを超越しようとする人)、性同一性障害(トラン
スジェンダーで特定の基準を満たした場合の精神神経医学上の診断名)、身体的な性別が
典型的な男性にも女性にも該当しないインターセックス(性分化疾患)の人などが挙げら
れます。
レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)、イン
ターセックス(I)の頭文字をとってLGBTIという呼び方がよく用いられますが、実際には
性的マイノリティと言ってもLGBTIには当てはまらない多様な形があります。例えば、女
装をしている男性が必ずしもトランスジェンダーとは限らず、それは職業上のパフォーマ
ンスとしての女装であり、実際は男性として男性が好きなゲイである場合や、男性として
生まれたトランスジェンダー(心の性別が女性)の人が、女性を好きになる同性愛者であ
る場合などです。
非常にプライベートな事柄であると同時に差別や偏見・誤解があることも影響し、日本で
はカミングアウトをしていない人が多いと言われ正確な数字は定かではありませんが、
2012年に電通総研が行った調査によるとLGBTの人の割合は人口の5.2%でした。この結果
は例えばひとつのクラスにLGBTの生徒がひとりからふたりいるという数字であり、もはや
「少数派」とは言えない数であるという意見もあります。しかし例えば教育現場において
も性的マイノリティの存在を想定した教育体制は十分にはとられておらず、学校システム
上の問題があったりいじめの対象とされたりすることや、教師が無意識に誤解を招く発言
をし、カミングアウトをしていない当事者の子どもを傷つけてしまうこと、偏見のある正
しくない知識を子供達に与えてしまうこともあります。日高氏の行った全国6自治体の保
育園、幼稚園、小中高校の教員5,979人を対象にした調査では、教員の約78%が学校の授
業でLGBTについて取り扱ったことがないと回答しました。また、同性愛について「本人の
選択によるものだと思うか」という問いに約39%が「そう思う」、約33%が「わからない
」と回答しており、約70%の教員が「性的指向は生まれ持ったもの」という正しい理解を
していないことも分かりました。

現在、多くの国や地域で同性結婚やそれに準ずる法制度が設けられるなど、法的・社会的
な面からの平等化が進んでいます。一方で偏見や差別が根強く同性愛行為には終身刑が課
せられる国や、日本のように性的マイノリティへの認識が拡がりつつあるものの、法的な
制度としては未だ模索中で、社会の理解が不十分な国も多くあります。そのような社会の
中で彼らが感じる様々な「生きにくさ」や孤独感が自殺念慮の高さに繋がっている可能性
が指摘されています。

性的マイノリティが抱える自殺念慮の原因としては様々なものが指摘されていて、子ども
の頃からのいじめや差別、日常的に見聞きし、体験する周囲からの意識的・無意識的な偏
見、それによって生じる自己否定感、社会に受け止めてもらえない孤独、生き方の参考と
なる人生のモデルがいないため人生設計を見いだせず将来に希望を持てないこと、本当の
自分を隠しながら生きることへの辛さや後ろめたさなどが挙げられます。また、このよう
な悩みを家族にも言い出せない事や、打ち明けたところ受け入れてもらえなかった経験な
ども生きづらさの原因になりえます。こうした小さいころからのネガティブな経験が性的
マイノリティのメンタルヘルスを損ない、自殺念慮を高くしていると考えられています。
2001年に日高氏によって実施された、15歳から24歳の若者2,095人に対する街頭調査によ
って、ゲイとバイセクシュアルの男性の自殺未遂率はそうでない人の6倍という高い数字
が示されています。また、LGBTを対象とした2013年に行われたインターネット調査では、
全回答者(609人)の68%が「身体的暴力」「言葉による暴力」「性的な暴力」「無視・
仲間はずれ」などのいじめや暴力を経験しており、いじめや暴力を受けたことによる影響
として32%が「自殺を考えた」、22%が「わざと自分の身体を傷つけた(リストカットな
ど)」と回答しました。特に性別違和のある男子(身体的な性別が男性であり、心の性別
が女性、その他、わからない、に当てはまる人)のグループではいじめや暴力を経験した
割合は82%に上り、これらの結果から、いじめや暴力にあう確立の高さ、それらが希死念
慮や自傷行為に影響することなどが示唆される結果となりました。

また、現行の制度に生きにくさを感じる当事者もいます。例えば現在同性婚が認められて
いない日本では、同性愛の人々は異性愛のカップルが得られる様々な社会的保障を受ける
ことができない場合があります。例えば夫婦や恋人であれば簡単に借りることができる賃
貸物件が、同性カップルだと拒否されたり、嫌がられたりするなどです。また、歳を重ね
るごとに老後への不安を募らせる当事者もいます。子孫を残すことができないため、老後
を支えてくれる人がいないこと、例え老人ホームなどの施設に入所しても性的マイノリテ
ィであることが受け入れられないかもしれないという思いなどです。各種保険や家のロー
ンなど、家族を前提とした様々な制度を利用することができないことや、お互いの関係を
証明するものがないため、例えば急病や事故の時に身内として扱われず、病院側に面会拒
否をされるなどの事態も実際に起きています。こうした様々な社会的不平等が、性的マイ
ノリティとして生きる人々の生活を苦しめています。

先の電通の研究によると、普段の生活で「生きづらい」と感じることがあるか、という質
問に「とても感じる」「どちらかといえば、感じる」と答えた人の割合は一般層が49.3%
であったのに比べ、LGBT層では62.6%でした。また、「満たされていない」と「とても感
じる」人もLGBT層には多く、「満たされていないこと」としては一番多かった「心」に次
いで、「経済面」「仕事」「身体(健康)」と様々でした。内閣府が発表している「自殺の
危険因子と防御因子」では、危険因子として、いじめ、生活上のストレス、支援者がいな
い、社会制度が活用できない、自殺念慮や孤立感などが挙げられています。


しかし悲観すべきことばかりではありません。日本でも性的マイノリティの当事者やその
家族、パートナーへの支援や人権啓発を目的に活動している団体があります。また、安心
して自分の性についてカミングアウトし、悩みや不安を語り合い、ロールモデルに出会う
ことができる場が当事者を中心に作られています。養護教諭が性的マイノリティの子ども
の相談相手となっていたり、当事者と語り合えるコミュニティの情報を提供したりしてい
るケースや、トランスジェンダーの子どもが心の性のまま学校生活を送れるように学校・
家庭・精神科医が連携して個別対応をしているケースもあります。制度的なことに関して
は、同性婚やそれに準じるパートナーシップ制度の制定や、同性カップルが里親になれる
制度の制定を求める活動が行われていますし、性的マイノリティに対してオープンなシェ
アハウスが作られるなどの試みもあります。こういった一人一人が生きやすい社会、自分
らしく生きられる社会を目指した取り組みが、性的マイノリティの人々の生きやすさを守
り、自殺率を下げることに繋がるのではないでしょうか。

◇性的マイノリティに関する各種相談窓口、相談窓口紹介ページ
ESTO電話相談(性と人権ネットワークESTO民間)
http://estonet.info/ 
NHK 福祉ポータル ハートネットお役立ち情報・相談窓口
http://www.nhk.or.jp/heart-net/themes/lgbt/ 

[参考文献]
日高庸晴(2014).「個別施策層のインターネットによるモニタリング調査と教育・検査・
臨床現場における予防・支援に関する研究」2014年10月30日アクセス
日高庸晴ら(2008).「わが国における都会の若者の自殺未遂経験割合とその関連要因関す
る研究」Social Psychiatry and Psychiatric Epidemiology ,43:752-757.
いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン(2014).「LGBTの学校生活に関する実
態調査(2013)結果報告書」
株式会社電通(2012).「電通総研LGBT調査2012」dentsu 
松本俊彦(2009).「思春期のこころと性」(現代のエスプリ509)(株)ぎょうせい.
内閣府(2014). 「平成26年版 自殺対策白書」
脇田真也.「特集性的少数者の自殺リスク」. 公益財団法人 東京都人権啓発センター.
2013.< http://www.tokyo-jinken.or.jp/jyoho/jyouhousi.htm> 2014年10月23日アクセス

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【3】お知らせ

◇ 精神保健福祉センターでは、こころの電話相談を次の時間帯で行っています。
月曜から金曜日                 9:00〜21:00
土曜日曜祝日(12月29日〜1月3日を除く)   10:00〜16:00
Tel:0570-064-556
※ご相談の電話が集中しますと、つながりづらい状態になりますがご了承ください。

◇ HP・携帯版HPをご覧ください
北海道地域自殺予防情報センターのHPを開設しています。最新の北海道の状況を掲載して
おり、より情報を見やすく、分かりやすくお伝えできるよう心がけています。
パソコンHP  URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/jisatutaisaku.htm

また、携帯電話で見ることができる携帯版HPも開設しています。警察庁および北海道警察
から公表された統計資料をもとに、北海道における自殺の状況を掲載しています。こちら
も併せてご覧ください。
携帯HP  URL:http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/i/joukyou.htm

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【4】編集後記

日ごとに秋も深まり、北海道では今にも冬が始まりそうなこの季節、Andante読者の皆様
はいかがお過ごしでしょうか。秋は芸術、食、スポーツ、読書などなど何に打ち込むにも
もってこいの季節です。趣味に没頭したり新しいことを始めたり夏の疲れを癒やしたり、
長い冬に向け、身体のみならず心にも栄養を蓄えるような秋にしたいものです。皆様も風
邪などひかぬよう暖かくして、つかの間の秋を楽しんでくださいね。

次号Vol.65は、2014年11月末に配信予定です。

                                                        *お問い合わせ先* 
                                                北海道立精神保健福祉センター
                                               札幌市白石区本通16丁目北6番34号
                                                              Tel 011-864-7121
                                                              Fax 011-864-9546
                                    URL  http://www.pref.hokkaido.lg.jp/hf/sfc/
                                    Mail   hofuku.seishin1@pref.hokkaido.lg.jp